2016年度ALEプログラム
福岡県北九州市立鞘ヶ谷小学校×
北九州芸術劇場×
青山学院大学社会情報学部LCD研究ユニット

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2016/11/1 (火) “出会う”授業

出会う授業は、ALEプログラムの活動を始める前に予め子どもたちに「何のためにやる活動なのか」を伝える時間です。本授業では、俳優であり演出家の田上豊氏を招いて3回の芸術表現体験活動を実施します。さらに、芸術表現体験活動の翌日には青山学院大学苅宿研究室による省察(振り返り)を実施します。このセットを3回繰り返すのがALEプログラム@鞘ヶ谷小学校です。活動の中で子どもたちは人や物、ことがらと出会い、その出会いが自分の変化のきっかけとなっていきます。

人間の協働性は2万年以上前に絶滅したヒト科のネアンデルタール人がいた頃から埋め込まれていたと考えられています。したがって、子どもたちの中にも協働性は埋め込まれているのです。グループで演劇的な活動を体験することを通して、潜在的に埋め込まれている協働性が存分に引き出され、鞘ヶ谷小学校の5年生のみなさんは、今は隠れているまだ見ぬ自分や友達に出会うことができるでしょう。また、人は周りから褒められるとその良さに気づくことができます。そこで、これからの活動では自分も友達など周りの人の良いところを褒めて、その良さに気づかせてあげる気持ちで取り組んでいくことを学習ルールとしました!

アウトリーチ① 田上豊氏の演劇WS(1回目)

1. あいさつ

北九州で俳優として活躍されている穴迫信一氏も駆けつけてくださいました。計3回の芸術表現体験活動では「伝え合う、助け合う、演じ合う」ことをやっていきます。

田上豊氏(写真右)

1983年熊本県生まれ。桜美林大学文学部総合文化学科卒業。2006年、劇団「田上パル」を結成。方言を多用し、 疾風怒濤のテンポと、遊び心満載の演出は「体育会系演劇」とも評される。大学在学中にワークショップデザインを研究し、現在、 教育現場を中心に、創作型、体験型のワークショップを全国各地で実施している。演劇部の嘱託顧問や、総合高校での表現科目「演劇」の授業を受け持つなど、教育現場での経験も持つ。高校生、大学生とのクリエーション、リーディング、市民劇団への書き下ろしなど、劇団外での創作活動も展開。現在、富士見市民文化会館キラリふじみアソシエイトアーティスト、青年団演出部所属。(田上パルHPより)

穴迫信一氏(写真左)

1990 年生。北九州市小倉北区出身。北九州芸術劇場シアターラボ 2010 の参加をきっかけに劇団を旗揚げ。その後、北九州市内外の多くの公演・事業に参加。元ラッパーという経歴を生かしたビート感のある作品構成と、それらを俳優の発語を用い音楽的に組み立てる演出が特徴。日本初の都市モノレール公演や野外音楽劇など実験的な作品も手がけている。2015年からは京都でも作品を継続して発表。(ブルーエゴナクHPより)

2. 指あそび

数え歌に合わせて、指を使って数を数えていくのですが・・・歌と指の数が合わない!?普段私たちは視覚情報と聴覚情報、どちらかに騙されていることが多いかもしれませんね。

3.じゃんけんゲーム

通常のじゃんけんと同じルールで、3回勝ったら椅子に座ることができます。ここへ、ルールが追加されます。まず最はじゃんけんの相手は異性でなければいけないというルール。次はじゃんけんして勝った方が負けた方に質問をして答えをもらったら1ポイント獲得でき、3ポイント溜まったら椅子に座ることができるというルール。

4. 椅子とり鬼ごっこ

クラスの人数分+1脚の椅子があります。1つ空いている椅子に鬼が座らないように阻止していくゲームです。クラス全員で作戦を考え、鬼が椅子に座るのを阻止しなくてはなりません。クラスの協働性が試されます!

5. ゾンビ鬼

名前の通り、鬼ごっこのルールと同じですが鬼が“ゾンビ”になっていくゲームです。タッチされたらゾンビになりきって人間たちを追いかけます。楽しくなりきることができますね!

〜休憩〜

6. 聖徳太子ゲーム

ある1人の生徒の周りを4人の生徒が囲み、それぞれ違う動きや話をします。前に立つ人は「面白い動き」、後ろに立つ人は「人生相談」、右に立つ人は「簡単な計算問題を出題」、左に立つ人は「自己流昔ばなし」。真ん中に立つ人は周りの4人の動きや話を全て真似なければいけません。

7. あてっこ+ジェスチャーゲーム

クラスを3つのグループに分け、1グループずつ1列に並びます。お題が出されるので、そのお題のジェスチャーをリレー形式で次の人に伝達していきます。最後、アンカーの人はお題を当てます。

省察活動①

省察活動では次の機会をよりよくするために、やったことを振り返って様々な観点で改めて自分や友人のことを考えていきます。活動の最後には子どもたちが記入したリフレクションシートを全員で共有することで多様性に気づいたり、活動中の映像からグループや自分自身を客観的に見たりします。

子どもたちの感想をいくつか紹介します。「ジェスチャーゲームで、口で伝え合わないで動きだけで伝えようとしてもどんどん違うものになるのでおもしろかったです。」「椅子とり鬼ごっこで、僕たちはみんなで助け合っているということを感じました。」「最後、最初よりうまくいった。」「チームの人と協力するゲームはチームワークが試されるのでとても難しかった。」「1人1人がジェスチャーを見て感じることや思うことが違うから動きが変わったと思う。」「伝え合う、助け合う、演じ合うの意味が少しずつわかってきた。」

感想からもわかるように、5年1組のみなさんは自分が何を考えているのか、考えていたのかを伝え合う感覚を持っています。次からも、その感覚を大切に活動に取り組もうという学習目標を新たに立てました。

アウトリーチ② 田上豊氏の演劇WS(2回目)

1.あいさつ

2.お絵描き、ジバニャン

子どもたちがよく知っていて、田上さんがよく知らない「ジバニャン」の絵を田上さんだけで描いていきます。ただし、子どもたちからの言葉だけがヒントです。子どもたちは言葉だけで目の大きさや鼻の位置、顔の形をわかりやすく説明しなければ田上さんはジバニャンを描き上げることができません。自分が伝えたと思っていることも、実は伝わっていないことが日常にたくさんあることに気づくかもしれませんね。

3.昔話一言リレー

クラスを3つのグループに分け、グループごとに昔話を作ります。ただし、1人一言ずつ回しながら作ります。例えば、「昔々」「森で」「おじいさんと」「おばあさんが」「歩いていた」「そこへ」・・・のように回していき、オリジナル昔話を完成させます。

3.台本穴埋め

田上さんが選んできてくださった、ある台本があります。しかしその台本の一部のセリフが空欄になっています。そこで、子どもたちが3人1組のグループになり、それぞれ台本の空欄を埋めるセリフを考えます。実はこの台本・・・穴埋めが終わると回収され、シャッフルされてしまうんです!

4.創作

他のグループが作った台本の中身を確認し、それを演じます。なぜそのセリフを穴埋めしたのかがわからないので一生懸命想像力を働かせ、どの場所でどの役をどのように演じるかを考えます。

5.発表

それぞれのグループが選んだ場所で発表会をしていきます。

6.講評

田上さんより、演劇の専門的な知識を交えたコメントを1グループずついただきました。

省察活動②

活動の振り返りを通して、自分や友達の隠された面に出会います。前回の省察回で子どもたちが書いてくれたリフレクションシートに苅宿研究室スタッフの岡本が質問を書きました。子どもたちは悩みながらも質問の回答を書いてくれました。例えば、「違う班の人の台本を演じるときに工夫した」という子どものリフレクションシートに、「どんなことを工夫したのかな?」と岡本から質問をしました。すると、「ジャングルということで緑が多い方がいいのでは?と思って外でやってみました。B,Aさんが歩きながら喋って自然な雰囲気を出しました。セリフをCの気持ちになって言ってみました。」という回答が返ってきました。こうして、子どもたちには自分が感じたことや考えたことを具体化してもらうことを通して、彼らの隠れている面を引き出していきます。

子どもたちの感想をいくつか紹介します。「人が作ったのをどうおもしろくするかを考えてとても大変でした。」「違う班の台本が渡されて、どういうこと?と思ったけどイメージしながら劇をした。」「昔話は、めちゃめちゃだったけど相手がくれたことを次の人に続けていかないといけない。大変でした。」「劇のセリフを考えるとき、おもしろくなったらいいなと考えて作ったら考えるのが楽しくなった。」「意見を出し合うことでより良い劇になった。」「今日ワークショップで想像力が広がったと思います。頭の中で考え、それを言葉に出す。始めの僕になかったことです。それがこのことを通して少しずつ大きくなっていると思います。」「自分たちの台本で友達が劇をしていてとってもいいなと思った。」

そして最後に、自分や友達の隠された面と出会ったものを3つの観点から伝え合うことにしました。1つ目は “劇だからできたこと”2つ目は “このクラスだからできたこと“3つ目は”あの子だからできたこと“です。

アウトリーチ③ 田上豊氏の演劇WS(3回目)

1.あいさつ

2.だるまさんが転んだ

ルールはだるまさんが転んだと同様です。しかし、「だるまさんが〜〜」の〜〜の部分に好きな言葉を入れてOKです。例えば、「だるまさんがラーメンを食べている」であれば、鬼が振り向いた時に他の人はラーメンを食べている動きをしなければいけません。正解、不正解のない良い意味で自由なだるまさんが転んだゲームです。

3.謎の生命体は何者だ?

クラスを3つのグループに分けて取り組みます。田上さんが持っている1枚の紙には謎の生命体の絵が書かれています。その生命体について、北九州芸術劇場や青学のスタッフが質問をします。その質問に子どもたちは答えなければいけません。例えば、「必殺技はなんですか?」というような質問です。

4.桃太郎 一文節リレー

またクラスを3つのグループに分け、日本昔話の桃太郎を順番に話していきます。例えば、1人目「昔々あるところに」、2人目「おじいさんとおばあさんがいました」、3人目「おばあさんは芝刈りに、おじいさんは川へ洗濯に行きました」のように、実話とは少し変化させてもいいのでグループごとにオリジナル桃太郎のストーリー作っていきます。

5.創作

各グループで作った「オリジナル桃太郎」を演劇にしていきます。セリフや動きも全て自分達で考えて作ります。

6.発表

それぞれのグループが選んだ場所で発表会をしていきます。

7.講評

田上さんより、演劇の専門的な知識を交えたコメントを1グループずついただきました。

省察活動③

前回の省察回で、自分や友達の隠された面と出会ったものを3つの観点から伝え合いました。観点の1つ目は “劇だからできたこと”2つ目は “このクラスだからできたこと“3つ目は”あの子だからできたこと“です。それぞれについて子どもたち考えてくれたことを紹介します。

まずは“劇だからできたこと”です。「たくさんイメージを膨らませることができた。」「みんなと話し合ってセリフを考えたり、意見を出し合ってどんどんいいものにしていった。」「普段学校で言えないおもしろいことを言うことができました。」「相談するときは遊んでいるくらい楽しかった。」「自由に場所などをとれたから楽しかった。」

次に“このクラスだからできたこと“です。「男女関係なく一緒に協力できる。」「あまり緊張せずに発表ができた。」「劇でみんな友達のことを思いやって笑ってくれた。」「その人その人の性格を知っているので劇を見るとき、あの子らしいな、えっ意外だなと思いながら鑑賞することができました。」

最後に”あの子だからできたこと“です。「——さんの発想力があったからおもしろくできた。」「——は身長が高いから先生の役ができた。」「——くんがおばさん役をやっていて勇気があるなあと思った。」「——くんだからいつも笑っているAの役を演じられた。」「——は考えをよく伝えられるし、——さんも同じ。この2人がいなければこんな内容ではなかった。」

ここからは“自分だからできたこと“も考えていきます。小学5年生にとって自分のことを考えるのはとても難しいことです。そこで、”“自分だからできたこと“を急に考えるのではなく、まずは友達から褒めてもらうことで自分の良さに気づいていくことにしました。前回の活動の映像や写真を見返してやったことを思い出しつつ、お互いの良いところを「褒めるカード」に書いていきました。

2016/11/16 (水)“伝える”授業

伝える授業はALEプログラムで出会った「隠れていた自分」を他者に伝えてもう時間です。前回の省察で書いた「褒めるカード」を友達にギフトしていきます。もちろん、自分ももらうことができますね。そのもらったカードを見て、“自分だからできたこと“を自分で考えます。

7日間で見つけたことを3つの観点=“劇だからできたこと” “このクラスだからできたこと“”あの子だからできたこと“から、語れる三角という道具を使って先生や北九州芸術劇場のスタッフ、青山学院大学のスタッフに発表しました。

最後に、これまでの活動全てをダイジェストにした映像を全員で見て本プログラムは終了しました!鞘ヶ谷小学校のみなさま、北九州芸術劇場のみなさま、田上さん、穴迫さんありがとうございました!