学習環境をデザインする学びの増幅と教え手の離脱

シンポジウムでは広い意味での「アート」に関わるゲストにお越しいただき、事例をたくさん紹介していただきました。そして、参加者のみなさんとともにアートの捉え方やアート系ワークショップのこれからの可能性について考えました。1つのエピソードの解釈を様々にしていくのではなくエピソードをたくさん作り上げて他者と共有していくことや、注目されている言葉や事例の対義語を考えることでぼんやりしていたものを整理することができました。

  • day1

    13:00
    -15:00

    ワークショップonワークショップ

    「体験編—逆転時間ワークショップ」と、それをリアルタイムで解説する「解説編—ワークショップの意味と仕組みを考える」です。体験編は小学校3〜4年生向けに「逆転時間アプリ」を使ってグループで作品作りを行うワークショップを実施。解説編はワークショップを実践していきたいと考えているアーティストやワークショップを取り入れたいと考えている現場の先生に向けて実施。ワークショップならではのことやワークショップの現場で起こっていることを「学び」としてどう捉えるのかなど、観察と解説を通して考えました。ワークショップを見ながらインターカム等で解説者の解説を聞いたり、ディスカッションを行ったりしました。

    ワークショップonワークショップの様子

    講師紹介

    • 体験編岡本夏海

      青山学院大学社会情報学部学習コミュニティデザイン研究ユニット研究スタッフ。芸術表現体験活動と省察活動を組み合わせたALEプログラムの活動を各地の小中学校で行っている。
    • 解説編上田信行

      同志社女子大学現代社会学部現代こども学科教授、ネオミュージアム館長。 プレイフル• ラーニングをキーワードに、学習環境デザインとラーニング・アートの先進的かつ独創的な学びの場づくりを数多く実施している。
  • 15:30
    -17:00

    パネルディスカッション「アートによる教育の可能性をさぐる」

    3名のパネラーを迎え、アートによる教育の可能性についてディスカッションを行いました。ディスカッションの大きなテーマは「“遊び”の対義語を考える」です。関口氏は「心が満タンになっていないとき」、田野氏は「ルーティン」、岡田氏は「子どもが自分にとっての新しい意味とか価値を作り出さない行為」だとおっしゃっていました。みなさんのお話の中で共通していたのは「作業」というワードです。「作業はするな」と普段からそれぞれの組織の中で徹底されているそうです。この2時間半で1つの答えを出すことはできません。アートとは答えがないため活用の方法や解釈の仕方が無限にあります。しかし、答えがないからといって考えるのをやめるのではなく、今回「“遊び“の対義語」を考えたように、様々な角度から模索し続けることが私たちにとって必要なのではないでしょうか。

    パネラー紹介

    • 苅宿俊文

      青山学院大学社会情報学部教授、東京藝術大学非常勤講師。芸術表現体験活動(アート系ワークショップの体験)と省察活動(体験の振り返り)を行い、児童生徒の資質・能力の発見定着を目指すプログラムとしてALE(Authentic Learning Environment)プログラムを鳥取県や長野県等各地の小中学校で実践、研究している。また、社会人のための学校教育法に基づく履修証明プログラムとして、青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラムを運営。

    • 関口玲子

      宮城県立子ども病院癒しの環境コーディネーター、宮城学院女子大学非常勤講師、アートミーツケア学会理事、宮城県文化振興財団理事、西公園を遊ぼうプロジェクト代表。宮城県立美術館、三重県立美術館、キッズプラザ大阪、篠山チルドレンズミュージアム、せんだいメディアテーク等、県内外で数多くのワークショップを企画・実践。

      ハート&アート空間・ビーアイの代表を務める関口氏は自身のことを歩くアート、笑うアート、しみじみするアート、寄り添うアートと表現する。ビーアイでは子どもたちが身近にあるものを使って自由に発想し絵を描いたり造形物を作ったりしている。

      彼女が子どもたちと接していて改めて思うことは「人間というのは自分になるために生まれてきた」ということ。だから人間は学び続ける。そこでビーアイでは様々な部屋や道具を用意しており、大人はもちろん子どもたちも各部屋のどこに何があるのかを把握している。子どもたちは自分の使うものや自分が楽しむものは自分で用意し、使い終わったら元に戻すという習慣を楽しみながら学んでいるという。

      今回関口氏はビーアイで活動する子どもたちの様子を象徴的な写真とともに紹介してくださいました。ビーアイの子どもたちの特徴は前のめりになりながら活動をしていることや自分の興味が赴くままに突き進んでいることです。子どもたちが自分らしく過ごしていられるのは何より、彼女が子どもの素晴らしいところを発見するアンテナがとても敏感であることがポイントだと感じました。遊んでいるときの子どもの手つきや姿勢にも注目し、熱気あふれる話をする関口氏。彼女が今回伝えたかったメッセージは「遊びっ気、勇気、呑気さ、余裕を持って子どもと過ごすこと」だそうです。私たちは見ることや聞くことを十分意識して豊かにしていくことから始めなければいけませんね。

    • 田野邦彦

      NPO法人PAVLIC理事長、洗足学園音楽大学ミュージカルコース及び帝京大学短期大学非常勤講師、青年団演出部所属、青年団リンクRoMT主宰。近年は、「コミュニケーション能力の育成」「防犯」「防災」「教員免許状更新講習」「多文化共生」「キャリア教育」「社会的弱者の自立就労支援」等、幅広い社会テーマと演劇をかけあわせたワークショップを国内外で数多く手掛けている。また企業向けの研修プログラム作り、ファシリテーター育成事業などの企画・コーディネートも全国各地で行っている。

      演劇を活用したワークショップの実施を様々な地域の方と連携して行うNPO法人PAVLIC(http://www.npo-pavlic.org)の理事を務める田野氏は日常の当たり前や価値を転回するということに演劇も含むアートの意味・存在価値があると考えている。

      活動は主にコミュニケーション教育や防災防犯などの地域内コミュニケーション、企業や大学と連携した世代間/組織内コミュニケーション、異文化コミュニケーション等の推進を目指したワークショップを実施する。ワークショップを作るときに彼が大切にしているのは子どもたちが主体的に課題解決に向かっていくよう、「チャレンジをデザインする」「問いをデザインする」ということと、「楽しい!と思える経験をデザインする」ということである。

      今回田野氏は自身が行なっている活動のうち小学生を対象とした実践事例を紹介してくださいました。じゃんけんで例えると「負けた方が勝ち」というようように、当たり前を転回する活動がたくさんありました。そうした非日常の楽しさは子どもたちを夢中にします。子どもはもちろん、大人も夢中になっていることが写真からも伝わってきます。
      活動事例が紹介されているHP https://www.hinagata-mag.com/report/17017

      夢中なときほど本当の自分が見えてくるものです。子どもたちがワークショップ中に見せた特徴を担任の先生と共有することで、クラス運営に生かしていくこともできます。こうしたサイクルを回していくことで子どもたちが自分らしく過ごしていくことができる環境作りが可能になると感じました。

    • 岡田京子

      国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官、文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官。教員時代より図画工作科の実践研究に取り組み、文部科学省 学習指導要領解説図画工作編作成、評価規準の作成のための参考資料作成、特定の課題に関する調査などに携わる。現在、全国各地で授業改善の指導講評や、学習指導要領の周知のため講演を行っている。

      文部科学省図画工作科の教科調査官である岡田氏はアートの特徴を自分で納得したら終われること、もっと言えば自分で納得しなきゃ終われないことだと考える。図画工作科の表現の学習では造形遊びというのが近年取り入れられ、今ある材料や今いる場所から発想して何ができるかを考える活動を行う。造形遊びは地域の特色に合わせて、例えば北海道であれば雪を使った活動をすることもある。何ができるかなという思考はとても大切であり、さらにそれを振り返ることで活動を自分自身で意味付けしていく。

      また、岡田氏は活動を振り返る学びにも注目している。例えば、子どもが次のように活動を振り返った。「最初こんなイメージだったけど、だんだんお友達とやっていたらこんな風になって、今はお城みたいなのができています。」この発言を受けて、先生は「他にもイメージが変わった人はいますか?」と他の子どもたちにも質問をする。すると、「最初こんなことやっていたんだけど、最後こんなふうになってイメージが変わったんだよ。」というような発言が次々と生まれた。

      今回、岡田氏は子どもたちが作った作品の写真とともに事例をしてくださいました。物があることで関係性が作られていく学びの面白さを知りました。また、先生の一言で振り返りの質が変化することは面白い点であり、課題でもあると感じました。

  • day2

    10:00
    -12:00

    講演とワークショップ体験「ワークショップデザイナー育成プログラムを体験しよう!」

    ワークショップの企画・運営などに興味のある方に向けた体験会として実施しました。「ワークショップデザイナー育成プログラム」は、異質な当たり前を持った人と人、コミュニティとコミュニティの結び目となる人材を育成することをめざし、青山学院大学・大阪大学が開講している社会人向け履修プログラムです。(2018年4月時点青山学院大学のみでの開講となっています。)具体的には3ヶ月、120時間の講座を受講することでワークショップの企画・実践のできるコミュニケーションの場づくりの専門家の育成をめざしています。

    青山学院大学社会情報学部 ワークショップデザイナー育成プログラム

    講師紹介

    • 苅宿俊文

      青山学院大学社会情報学部教授、東京藝術大学非常勤講師。芸術表現体験活動(アート系ワークショップの体験)と省察活動(体験の振り返り)を行い、児童生徒の資質・能力の発見定着を目指すプログラムとしてALE(Authentic Learning Environment)プログラムを鳥取県や長野県等各地の小中学校で実践、研究している。また、社会人のための学校教育法に基づく履修証明プログラムとして、青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラムを運営。
    • 長島奈緒美

      青山学院大学社会情報学部学習コミュニティデザイン研究ユニット特別研究員/東京藝術大学非常勤講師/ワークショップデザイナー育成プログラム講師兼プロデューサー。「協働性」や「資質・能力の育成」をキーワードに、ワークショップの実践・研究・人材育成に関わっている。
  • 13:00
    -15:00

    講演「根源的能動性をもう一度問い直す」

    佐伯胖氏はワークショップがめざすべきことは、さまざまな「しがらみを解くこと」として、自分自身の内側から湧き起こってくる「知りたい」「学びたい」「つくりたい」という根源的な能動性を回復し、本当の学びのおもしろさに目覚めることであるとされています。佐伯氏による実践と研究のお話から、私たちの中にある根源的能動性をもう一度問い直しました。

    講演詳細

    • 佐伯胖

      佐伯豊氏による「根源的能動性をもう一度問い直す」根源的能動性は成長につれて失われていく。それは他でもない教育による。人は教えられるとき、自ら考えるスイッチを切るのです。
      詳しくはこちら
  • 15:30
    -16:30

    パネルディスカッション「教室にやってきたワークショップ」

    現在、青山学院大学社会情報学部学習コミュニティデザイン研究ユニットが試験的に取り組んでいるALE(Authentic Learning Environment)プログラムの実践の紹介を通して、学校の中でのワークショップの可能性について考えました。ALEプログラムとは、アート系ワークショップなどの芸術表現体験活動と、省察(振り返り)活動を組み合わせ、子どものコミュニケーション能力を引き出し、資質・能力の育成につなげていこうとする取り組みです。

    私たちは、学校にアート系ワークショップが定着していくためには、ワークショップの研究成果を世の中にわかる形で出していくことが必要だと考えています。ワークショップは複雑で、短期的・急激な変化が起こるものではないため、その実態や成果を捉えることはとても難しいです。しかし、私たちは、実践を重ねながら少しでもそれを世の中にアピールしていくために、研究方法を模索しながら研究に取り組んでいます。その成果や課題などについて会場の皆さんと一緒に考えていく機会となりました。

    研究対象となった実践学園中学校(東京都)での活動の様子

    パネラー紹介

    • 苅宿俊文

      青山学院大学社会情報学部教授、東京藝術大学非常勤講師。芸術表現体験活動(アート系ワークショップの体験)と省察活動(体験の振り返り)を行い、児童生徒の資質・能力の発見定着を目指すプログラムとしてALE(Authentic Learning Environment)プログラムを鳥取県や長野県等各地の小中学校で実践、研究している。また、社会人のための学校教育法に基づく履修証明プログラムとして、青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラムを運営。
    • 長島奈緒美

      青山学院大学社会情報学部学習コミュニティデザイン研究ユニット特別研究員/東京藝術大学非常勤講師/ワークショップデザイナー育成プログラム講師兼プロデューサー。「協働性」や「資質・能力の育成」をキーワードに、ワークショップの実践・研究・人材育成に関わっている。
    • 湯浅且敏

      認知科学、学習科学の知見をもとに、学習活動/環境の開発やその効果の検証を専門とする。現在ではPBL(Problem Based Learning/ Project Based Learning)を中心に学習者の主体性に主軸を置いた協調学習の開発、実践、支援を行なっている。
タイトル
ワークショップと学び2016
学習環境をデザインする —学びの増幅と教え手の離脱—
主催者
青山学院大学社会情報学部学習コミュニティデザイン(LCD)研究ユニット
会 場
せんだいメディアテーク
日 時
2016年11月26日(土)〜27日(日)