「大地の芸術祭」越後妻有アートトリエンナーレ2015 連携企画
@新潟県立十日町高等学校松之山分校

青山学院大学社会情報学部LCD研究ユニットは、2011年度から継続して、
「活用するアート」という切り口で、アートに関わる様々な体験や省察活動を実施してきました。
2015年度には、松之山分校に香港の中学生を招いて交流を深める活動や、
活動の可能性を地域の方とともに考えるシンポジウムを実施しました。

先日松之山分校で行われた異文化交流ワークショップに松之山分校の61名と香港の寶覺中学校の20名が参加しました!

テーマは「違って同じ、同じで違う」〜同化と排他を抑止するデザイン〜です!
日本人と香港人には同じことと違うことがあります。文化が違うけど好きなものは同じ。人であることは同じだけど話す言語が違う。この当たり前の感覚を実際に経験して確認するワークショップです。無理に同化する必要もなければ、排他されることもない、そんな場のデザインのもとで異文化交流スタートです!!

「こんにちは」は広東語で「你好(ネイホウ)」!
松之山分校の生徒はハイタッチロードを作り、寶覺中学校の生徒を出迎えました。

寶覺中学校の生徒は「こんにちは」松之山分校の生徒は「你好(ネイホウ)」と挨拶を交わしていました!

早速、お互いの学校の代表生徒の挨拶からスタート!
松之山分校:Ayaさん 寶覺中学校:Crystalさん

香港ではこういった校外活動の際に学校の校章旗を交換することが伝統だそうです。
香港で起きたデモで市民や学生らが、警察の催涙スプレーから身を守るために使われて来た傘がデモのシンボルとなりました。寶覺中学校の生徒たちはその黄色い傘を折り紙で折って松之山分校の生徒へプレゼントしてくれました!

お互いの学校代表の挨拶が終わったところでさらに、それぞれの学校の紹介VTRを見ました!
青学チームがそれぞれの学校へ訪問に行った際に作ったものです。
「私は松高で一番○○です」「私は○○が得意です」というVTRが流れると、恥ずかしそうにする生徒もいましたがそれぞれが個性的な特技や好きなものを紹介している姿を見て、この日初めて生徒たちの笑顔を見ることができました!

さてここからがワークショップのメインワークです!
できるだけたくさんの人と出会えるように、ビタハピを使ってワークを行いました。
ビタハピは、初対面の人とコミュニケーションをするときの気恥ずかしさをゲーム感覚で取り除き、活性化していくハッピ型コミュニケーションツールです。使うのは背中の4色と襟の色。特に背中の4色は自分で色を確認することが難しくなっています。友達に確認してもらうことで自然とコミュニケーションが生まれる場面もあります。

このビタハピを使って早速最初のシャッフルスタート!!
6人1組のグループができたところで、最初のお題にチャレンジしてもらいます。
グループで「名前と好きな食べ物」を話してください。

もちろん、日本と香港お互いの言語は通じません。
ボディアクションや英語、手に何かを書いて説明している人もいました。
松高生は「○○って英語で何て言うんだろう〜わからない〜難しい」と言いながらもとにかく様々なワードを口に出して一生懸命伝えようとしていました。

うまく伝わるグループもあれば全く伝わらないグループもありました。
グループのみんなと握手をして次のシャッフルへ!

2回目のシャッフルではいきなり難易度高め!
えり以外のすべての色が同じ人で集まってください。
時間はかかりましたが生徒たちが声を掛け合い、無事全員グループを作ることができました!
2つ目のお題は「名前と好きなアニメ、アイドル」について話してください。
これもまた、お互い伝えるのに苦戦し、身振り手振りや英語を駆使していました。好きなアニメやアイドルはいない!という子も数人いましたが彼らは代わりに雑談を楽しんでいました。

ここで前半戦は終了。休憩タイムです。
休憩には雪下人参という雪に埋まった土の中から掘り起こされた人参を使った“人参ジュース”を用意しました!雪下人参は普通の人参に比べ糖度が高いそうです。

休憩時間中、黄色い傘を折り紙で作ったものや手書き日本語メッセージ入りの香港写真、お菓子を可愛くラッピングしたものなど、寶覺中学校の生徒たちがたくさんのプレゼントを手渡す姿が見られました!
心のこもったプレゼントに松之山分校の生徒たちもとても喜んでいました。

ここからは後半戦!
再びシャッフルをし、ジェスチャーゲームを行いました!
言葉の壁があるためルールもやや難しくなりましたが身振り手振りと場の和やかな雰囲気でどのチームも盛り上がっていました!たとえ伝わらなくても言ってみよう、やってみようという気持ちが和やかな場の雰囲気を作り出していました。

ジェスチャーゲームのあとはリアルタイムドキュメンテーションへのメッセージ書きやチェキを使っての写真撮影会など自由な時間を楽しんでいました!
リアルタイムドキュメンテーションは今まさに起こっている出来事をリアルタイムで視覚化したものです!撮影した写真をその場でプリントし、イラストや文字を入れてここまでの時系列に沿って貼り出されています。ここに生徒たちが自由に書き込みをしていきました!
写真やメッセージで思い出を残していくこの時間はこちらの想像を遥かに超える盛り上がりでした!

最後に全員でラッシュを見て今回の活動の振り返りをしました。
みんなワークショップ開始のときと比べて表情が明るく変化していましたね!
松之山分校の教頭先生からも生徒たちの表情が変わっていったことに関して、生徒たちにとってすごく良い経験になったと思うというお言葉をいただきました!
松之山分校の生徒からは想像以上に伝わらなくてくじけそうになったという感想、寶覺中学校の生徒からは松之山分校の生徒に対して、親切にしてくれてありがとうという感謝の言葉がありました。

今回のワークショップを通じて、テーマであった「違って同じ、同じで違う」という経験をしてもらえていたら嬉しいです!

青山学院大学社会情報学部LCD研究ユニット
研究スタッフ 岡本夏海

掲載記事クリックで拡大できます

  • 十日町新聞 2105年8月6日(木)

  • 朝日新聞(新潟) 2015年7月29日(水)

【苅宿俊文氏】

アートは大きく分けると「するアート」と「見るアート」があります。この2つはすでに私たちに馴染み深いものだと思います。今日それに加えてもう1つ提案したいのが「使うアート」です。
アートは納得が大切です。例えば、自分で絵を描くとします。「もうちょっとこうしたかったな」、「次はこうしてみよう」というように、自分が作ったものにどう納得していくのか、それがアートの1つの考え方だと思っています。なぜ作ったのか、どのように作ったのか、作品の意味やプロセスが非常に使えると考えています。どう使えるかというと、他の人に自分を伝える材料になるということです。つまり、アートによる経験は他者に自分の考えたことや感じたことを伝える道具として使えるのではないでしょうか。松之山分校でも今、アート系の表現活動を経験して振り返ってよく考え、自分の資質や能力を見つけたり定着させようとしたりする活動をしています。
ではアートによる学びで具体的に何を育てるのか。それは例えば、キャリア教育の中の人間関係形成・社会形成能力と言われているものです。自分の考えていることを他者に伝えたり、他者が言っていることを受け止めたりする。そこで自分と他者の違いに気づくことができます。もちろん、同じこともたくさんあります。これらに気づくことを通して自分を理解、管理するセルフコントロールの力が育っていくのではないかなと考えています。

【上野正道氏】

21世紀の社会はグローバル化やポスト産業主義社会、知識基盤社会、高度情報社会、異文化共生、少子高齢化社会などさまざまな問題に直面しています。日本は明治期以降、追いつき追い越せ型でやってきました。追いつき追い越せ型というのはどこかに何かのモデルがあります。それはアメリカであったりヨーロッパであったり、どこかに正しい答えが用意されているのです。それをできるだけ模倣しましょう、できるだけスピードを持って、そのモデルに追いつきましょうということを日本はやってきたんですね。

しかし、ある程度豊かさが実現してきたことで、今では知識がどんどん高度化し、簡単にモデルがあるわけではなくもっと複雑に、あるいは複合的になってきました。そこで、専門家だけでなく当事者つまり私たちが内側から作り直していくことに参加していく必要が出てきました。グローバル化は範囲が広がっていく側面だけではなく、同時にローカル化、コミュニティ化が進んでいます。そのことに伴い、学校教育においては地域独自の特色あるカリキュラムや活動を準備していかなくてはならないのです。この地域では「アート」というキーワードが上がっていますね。

知識を活用できることが重視されることで、誰かが正しい知識を伝達していくタイプから、対話やコミュニケーションによって何かをつくっていく時代になりました。学校の先生も確実な情報を持っているわけではなく、児童や生徒とお互いに情報を出し合いながら知識を作り上げていくということも必要になっていくわけですね。また、アートの表現手法をつかって実際の社会生活や実生活の問題に対してどういうふうに問題を解決していくのかということが問われています。

アートは特別な人のものではなく、私たちのもっと日常的な経験の中にあるものです。そして、その中で人と人とが繋がりあっていくことができます。一見なんでもなく見えるものも実は生命活動全般という観点からすればアートへと繋がっていくもの。アートの経験を通して、学校が学校の中だけで閉じていったり、学校の中だけで通用する知識を獲得したりするだけではなくて、家庭や地域や職業や大学の専門機関等に開かれていくようなイメージを作れないかと考えています。

大東文化大学文学部准教授。ブリティッシュ・コロンビア大学客員准教授、ルクセンブルク大学客員研究員、済南大学客員教授などを歴任。博士(教育学)。
著書に、『学校の公共性と民主主義』(東京大学出版会、2010年)、『学校という対話空間』(共著、北大路書房、2011年)、『ワークショップと学びⅠ』(共著、東京大学出版会、2012年)、『民主主義への教育』(東京大学出版会、2013年)、『東アジアの未来をひらく学校改革』(共著、北大路書房、2014年)、DEMOCRATIC EDUCATION AND THE PUBLIC SPHERE(LONDON & NEWYORK , ROUTLEDGE , 2015年)など

【岡田京子氏】

2011年にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今存在していない仕事に就くだろうと言われています。これはアメリカだけの話ではなく、日本もおそらくこうなるでしょう。これだけ変化の激しい社会がやってくるということです。そこで、得たものの中から自分にとって何が大事かということを、判断する力や自ら問いを立てて解決を目指す力、他の人と協働しながら新たな価値を生み出していくことができる力、こうした資質・能力を身につけることが大切だと言われています。

子どもたちは様々な人と関わりながら学ぶということが大切です。様々な人と関わる中で自分の存在を認められていく経験をします。その経験によって何かを変えることができるのではないかと子どもや学生児童が感じてもらいたい。こうすることで、社会をより良くすることができるという実感をもつことができます。そのためには学校がもっともっと開かれた環境であることが不可欠だろうということが言われています。学校や家庭、地域社会も含めて子どもを育てていくという視点が大切だろうということです。

図画工作科の中でこの2、3年、造形あそびの実践がすごく広まっています。
例えば、四角い透明の折り紙を窓に貼ったり床に並べたりして活動している低学年の子どもの活動があります。実は折り紙は1人4枚しかあげていないため、もっと並べたい時に他者と繋がらなくてはなりません。「ねえねえ一緒に並べよう」、「一緒にやろう」というように友達に声をかける子どもが現れます。また、窓ガラスに貼ることで友達と作ったり、話したり、見合ったりしながら、図画工作の資質・能力が高まっていく授業です。

北海道では、色水で作った氷の塊を使った実践があります。子どもたちはそれらを雪に混ぜて山にしたり、積み重ねたりしながらこれを使ってどんなことができるかなということを考えています。このように、図画工作の授業を教室や図工室という部屋でやるだけでなく、廊下や外でやる地域もあります。アーティストだったり、地域の作家さんだったりが学校にやってきて地域の特色を生かした活動を展開している学校もあります。

ある学校の5年生が1年間の図画工作の授業を振り返ったときの言葉を紹介します。「私は図工をしたら、こうしたらこうなるだろうなという考える力を身につけました。」「考えた力を身につけたことでなんでもこうしたらこうなるだろうなということを考えることができるようになりました。」「図工はとても協力し合える教科だと思います。協力して良い作品ができあがるのがとても楽しいです。また図工でいろいろな考え方ができるようになりました。」等の振り返りがありました。

平成24年度の調査では自分や友達の表し方の良さや描き方の良さに気づくことがありますかという質問に対して80%以上の子どもが「はい」と答えています。学校は教育としてただ見ているただ描いているというよりも共に作りあっていく活動をより一層大切にしていき、地域とどう繋がっていくかを考えることがこれからの教育において大切になっていくことだと思います。

国立教育制作研究所 教育課程研究センター教育課程調査官 / 文部科学省初等中等教育局 教育課程課 教科調査官 東京都公立小学校教諭、主任教諭、文部科学省学習指導要領解説図画工作編作成、評価基準の作成のための参考資料、特定の課題に関する調査などに携わり、平成23年より現職。
専門は図画工作科教育。著書には、「わくわく図工レシピ集」(東洋館出版)「子どもスイッチON!!学び合い高め合う造形遊び」(東洋館出版)など多数。

【香港発表】

私たち20名は香港のポーコク中学校の中高生が大地の芸術祭の3週間の活動の中で感じたことをお話します。
1つ目の活動は農業体験です。地元のみなさんに鎌と草刈り機の使い方を教えてもらいました。草刈り以外に水やりや種まき、堆肥をつくることなども体験しました。私たちは香港で畑を耕したことがなかったので最初はおもしろそうだなと思って始めましたが、やってみて農家の人たちの大変さがとてもわかりました。
2つ目の活動は芸術祭でのアート作品の製作です。作家の岩間賢さんの作品で泥塗りをしました。お手伝いの間、手で作って、目で見て、頭で意味を考えながらゆっくりとアート作品を味わうことができました。
3つ目の活動は異文化交流です。松之山分校のみなさんとビタハピというコミュニケーションゲームの活動をしました。松之山分校のみなさんとは自分の趣味や好きな食べ物、アイドルなどの話をしました。他にも地元の日常生活などを教えてもらいました。
 4つ目の活動は、林間学校です。日本の東北からきた子どもたちと、東京芸術大学の先生や学生とともに活動をしました。日本のみなさんと一緒に植物の服をつくったり、竹で楽器をつくったりみんなで力を合わせて連日のように練習をしてその成果を発表しました。
 言葉の壁は確かにあります。しかし、だからこそいつもより丁寧に自分の気持ちを伝え、自分の気持ちを受け取り、もっと仲良くなろうとする雰囲気はとても気持ちよかったです。

アートディレクター。アートフロントギャラリー代表、女子美術大学教授。
「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」総合ディレクター、「にいがた水と土の芸術祭2009」ディレクター、「水都大阪2009」プロデューサー、「瀬戸内国際芸術祭2010」総合ディレクターなど、地域の魅力を再認識させるイベントやまちづくりに携わる。
11年から鹿児島県・奄美群島の地域づくりに取り組む。06年度芸術選奨文部科学大臣賞など受賞多数。近著に、『大地の芸術祭』(角川学芸出版)。

【北川フラム氏】

今までのジャンルに囚われないというよりは、ここで生きてきた人たち(死者)とここに生きている人たち(他者)、この交錯する地点に私たち(アーティスト)があって、そこで微かに何かうめいているものが僕は美術だと思っています。この豪雪地域の中で全ての人を受け入れ、それなりに田んぼを作ってきた地域が、国によって根切りされているということに対して今までの時空間が総反撃をして、美術の整理として出していったことでさまざまな人たちを惹きつけているのだと思います。
しかし、いまの香港の中高生の人たちが来てちゃんと挨拶をし、本当にきちっとやっていたのに対して、私たちはそれに対応できていません。実際に今50箇所くらいの場所で炎天下の中、受付や案内をやっています。ですが、残念ながら土日は人はいても平日はそれを受ける私たち、あるいは地元の人たちがいません。香港の子ども達がきて私たちに排他的でないということに教えてくれたのに対して、私たちはまだ徹底的に排他的です。それをなんとか直さなくてはいけないと感じています。
今日は全国から食に興味のある人たちが60人この地域に来て、食のやり方を学んで歩いています。昨日はアジアの女性の演劇関係者たちが会議をしました。そういう意味で極めて妻有というのは多様な人たちがここなら何かやれると思ってきている、そういう場所になりつつあります。この地域は豪雪の中で大変な思いをしてきたり、貧しかったりするのですが、人減らしがなかった地域です。それは、全ての人を受け入れるという最高の美徳だったはずだと思っています。けれども、最も苦労した農業地帯が非効率的だと言って切られていく時代に、もう一度本来持っている豪雪地域の奥のところで開かれている部分をさらに外側に開いていけるかっていうことをできたらおもしろいと思いますね。

さいごに

【苅宿俊文氏】

ここで何か結論が出るわけではありません。でもぜひ皆さん方にお伝えしたいことは、こういう動きがある、アートはこういう使い方もあるということですね。暑い中、みなさんありがとうございました。そして今日、来てくださった北川さんはじめ、岡田さん、上野さん、本当にありがとうございました。これで終わりにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

掲載記事クリックで拡大できます

  • カントリーポエム(東京松之山会)Vol.24 

  • 妻有新聞 2015年8月14日(金)